「働かなきゃいけないのは分かっている。でも、今の自分にできる仕事なんてあるんだろうか」
「人と話すのは怖い。満員電車も無理だ。それでも、少しでいいから収入を得たい」
ひきこもり期間が長くなると、社会復帰へのハードルはエベレストのように高く見えてしまいます。「普通の会社員」として働く自分を想像できず、絶望してしまうこともあるでしょう。
しかし、あえて断言します。「普通」を目指す必要はありません。
世の中には、私たちが思っている以上に多様な「仕事」や「働き方」が存在します。誰とも顔を合わせずに完結する仕事、黙々と手を動かすだけの仕事、自分の特性を活かせる専門的な仕事…。
私自身、元当事者として様々な働き方を模索してきました。この記事は、ひきこもり経験者が無理なく取り組める可能性が高い仕事を、具体的な「職種」として網羅的に紹介する「仕事図鑑」です。
「在宅ワーク」「外での軽作業」「福祉的就労」など、ジャンル別に20種類以上の仕事をピックアップしました。この中から、あなたの「これならできそう」を一つでも見つけていただければ幸いです。
仕事選びの極意:「できないこと」から消去法で選ぶ
具体的な職種を見る前に、失敗しない選び方の基準をお伝えします。それは「やりたいこと」で選ぶのではなく、「絶対にやりたくないこと(できないこと)」を避けるという「消去法」のアプローチです。
ひきこもり経験者が特に避けるべきストレス要因は、主に以下の3つです。
1. 過度な対人コミュニケーション:電話応対、接客、頻繁な会議など。
2. 厳格な時間拘束:満員電車での通勤、絶対に遅刻できないプレッシャー。
3. 複雑なマルチタスク:同時に複数のことを判断しなければならない業務。
これらの要素が少ない仕事を選ぶことが、長く続けるための秘訣です。それでは、具体的な職種を見ていきましょう。
【レベル1:完全在宅】誰とも会わずに家で稼ぐ仕事
対人不安が強く、家から出るのが難しい場合に最適なのが「在宅ワーク」です。PCやスマホがあれば始められるものが中心です。
1. アンケートモニター・ポイ活
・内容:企業からのアンケートに回答したり、指定の商品を試したりしてポイントを稼ぎます。
・メリット:スキル不要、スマホ一つで寝転がりながらでも可能です。「1円でも稼げた」という最初の成功体験に最適です。
・デメリット:単価が非常に低く、生活費を稼ぐのは困難です。あくまでお小遣い稼ぎやリハビリの第一歩です。
2. データ入力・文字起こし
・内容:名刺の情報をエクセルに入力したり、録音された音声を文章に書き起こしたりする作業です。
・メリット:マニュアル通りに正確に行うことが求められるため、自分の裁量で悩む必要がありません。「モクモク作業」が好きな人に向いています。
・デメリット:単純作業のため飽きやすいことと、近年はAIの台頭で単価が下落傾向にあります。
3. Webライティング
・内容:Webサイトの記事やブログ、YouTubeのシナリオなどを執筆します。
・メリット:文章を書くのが苦でなければ、初心者でも参入しやすいです。ひきこもり経験で培った深い内省や、ゲーム・アニメ等の知識がそのまま強みになります。
・デメリット:納期を守る自己管理能力が必要です。最初は文字単価が低い案件から実績を積む必要があります。
4. ブログ・アフィリエイト運営
・内容:自分でブログを立ち上げ、広告収入を得る方法です。
・メリット:納期もクライアントもなく、完全に自分のペースで運営できます。自分の体験を発信することで、誰かの役に立つ喜びがあります。
・デメリット:収益が出るまでに時間がかかり(半年〜1年以上)、全く稼げないリスクもあります。労働というより「事業」に近いです。
5. 動画編集
・内容:YouTuberなどの動画素材をカットし、テロップやBGMを入れる作業です。
・メリット:需要が非常に高く、スキルを身につければ単価も上がりやすいです。PCに向かって集中する作業なので、対人ストレスは低めです。
・デメリット:ある程度のスペックを持つPCと編集ソフトが必要です。編集作業は根気が必要です。
6. プログラミング・ITエンジニア
・内容:Webサイトの構築やアプリ開発などを行います。
・メリット:専門性が高く、高収入が狙えます。リモートワークが定着している業界なので、将来的にも在宅で働き続けられる可能性が高いです。
・デメリット:習得の難易度が高く、挫折しやすいです。また、実はクライアントとの仕様確認など、コミュニケーション能力も一定数求められます。
【レベル2:外での軽作業】人と話さず黙々と働く仕事
「家にはいたくない」「体を動かしたい」けれど、「接客や複雑な人間関係は無理」という方に適した、いわゆる「モクモク系」の仕事です。
7. ポスティング
・内容:指定されたエリアのポストにチラシを投函する仕事です。
・メリット:完全に一人で作業できます。ウォーキングになるため、体力作りと気晴らしを兼ねて行えます。自分のペースで休憩も取れます。
・デメリット:天候に左右されます(雨の日は休みか、大変)。また、住民の方に注意されることが稀にあり、メンタルへのダメージになる可能性があります。
8. 新聞配達(朝刊・夕刊)
・内容:バイクや自転車で新聞を配ります。
・メリット:特に朝刊は、誰とも会わずに静かな街を回れるため、対人ストレスが皆無に近いです。ルーティンワークなので一度道を覚えれば楽です。
・デメリット:早起き(深夜起き)が必須で、生活リズムが特殊になります。雨や雪の日も休めません。
9. 倉庫内軽作業(ピッキング・仕分け)
・内容:物流倉庫で、伝票に従って商品を集めたり(ピッキング)、配送先別に分けたりする仕事です。
・メリット:マニュアル化されており、私語禁止の現場も多いため、人間関係が希薄で楽です。単発バイトとしても募集が多く、試しに働きやすいです。
・デメリット:立ち仕事で歩き回るため、体力が必要です。夏は暑く冬は寒い倉庫もあります。
10. 清掃員(オフィス・ホテル・施設)
・内容:ビルやホテル、商業施設の掃除機かけ、ゴミ回収など。
・メリット:作業範囲が決まっており、一人または少人数で黙々と作業できます。「綺麗になった」という成果が目に見えるので、達成感があります。
・デメリット:汚れ物を扱う場面もあります。早朝や深夜のシフトが多い場合があります。
11. メーター検針員
・内容:各家庭の電気・ガス・水道のメーターを確認し、数値を端末に入力する仕事です。
・メリット:一人で担当エリアを回ります。自分のペースで回れるため、対人ストレスが少ないです。
・デメリット:外回りなので天候の影響を受けます。正確さが求められます。
12. 交通量調査
・内容:道端に座り、通過する車や人の数をカウンターで数える仕事です。
・メリット:誰とも話さず、ただ数えることに集中できます。短期・単発の募集が多いです。
・デメリット:長時間座りっぱなし(または立ちっぱなし)で、夏冬は過酷です。トイレに行きづらい現場もあります。
13. フードデリバリー(Uber Eatsなど)
・内容:自転車やバイクで料理を届けます。
・メリット:シフトがなく、自分の好きな時に働けます。「置き配」が普及し、顧客との対面も減っています。人間関係のしがらみが一切ありません。
・デメリット:完全歩合制なので収入が不安定です。事故のリスクがあります。
14. 施設警備員(夜間など)
・内容:オフィスビルや商業施設の巡回、モニター監視など。
・メリット:特に夜間警備は、人がいないため非常に静かです。座って監視する時間も多く、体力的な負担が比較的少ない現場もあります。
・デメリット:緊急時の対応が求められます。拘束時間が長い場合があります。
【レベル3:福祉的就労】配慮を受けながら働く
ひきこもりの背景に、障害や疾患の診断がある(または取得可能な)場合、「一般就労」にこだわる必要はありません。「障害福祉サービス」としての就労を利用することで、無理なく社会復帰を目指せます。
15. 就労継続支援B型事業所
・内容:雇用契約を結ばず、自分のペースで軽作業(内職、お菓子作り、農作業など)を行います。
・対象:体力や体調に不安があり、毎日通うのが難しい方。
・メリット:「週1回、1時間から」など、非常に柔軟な働き方が可能です。ノルマもありません。
・デメリット:賃金は「工賃」と呼ばれ、平均月額1万6千円程度(全国平均)と低めです。生活費を稼ぐというよりは、リハビリの場です。
16. 就労継続支援A型事業所
・内容:事業所と「雇用契約」を結び、最低賃金以上の給料をもらいながら働きます。
・対象:ある程度決まった時間に働けるが、一般企業への就職はまだ不安な方。
・メリット:配慮を受けながらも、労働者としての権利(最低賃金、労災など)が守られます。
・デメリット:B型よりは求められるレベルが高く、原則として毎日(または決まったシフトで)通う必要があります。
【番外編】「好き」や「特性」を活かすユニークな仕事
ひきこもり生活の中で培った趣味や、独自の感性が活きる仕事もあります。
17. ゲームテスター(デバッガー)
・内容:発売前のゲームをプレイし、バグ(不具合)を見つけて報告します。
・メリット:ゲーム好きにはたまらない仕事です。長時間集中して画面に向き合う能力が活かせます。
・デメリット:単純な繰り返し作業も多く、根気が必要です。守秘義務が非常に厳しいです。
18. ハンドメイド作家・イラストレーター
・内容:手芸作品やイラストを、「minne」や「ココナラ」などのサイトで販売します。
・メリット:自分の世界観を表現できます。対人関係はネット上のやり取りのみです。
・デメリット:売れるまでは収入になりません。マーケティング(どう売るか)の視点も必要です。
19. 農業(農作業ヘルパー)
・内容:収穫や草むしりなどの手伝い。
・メリット:自然の中で体を動かすことで、メンタルヘルスに良い影響(園芸療法的な効果)があると言われています。「農福連携」として、ひきこもり支援に力を入れている農家さんも増えています。
・デメリット:体力勝負です。虫や汚れが苦手な人には向きません。
20. 治験ボランティア
・内容:新しい薬の試験に参加します。入院タイプと通院タイプがあります。
・メリット:入院中は漫画を読んだりゲームをしたりして過ごせます。協力費(謝礼)が高額な場合が多いです。
・デメリット:健康状態などの条件(審査)が厳しく、誰でも参加できるわけではありません。採血などの負担があります。
まとめ:自分に合った「スモールステップ」で始めよう
「仕事」というと、どうしても「正社員で、フルタイムで、定年まで…」という重い責任をイメージしてしまいがちです。しかし、今回紹介したように、現代には多様な働き方があります。
まずは、週1回のポスティングからでも、1件10円のアンケートからでも構いません。重要なのは、金額の多寡ではなく、「自分のアクションに対して、社会から対価が支払われた」という事実を作ることです。
その小さな自信が、やがて次のステップ(例えば、もう少し稼げる仕事や、人と関わる仕事)への扉を開く鍵になります。
焦る必要はありません。今のあなたの状態のままで、無理なくできる「小さな仕事」から、実験するような気持ちで試してみてください。