「札幌に住んでいるけれど、ひきこもりの悩みをどこに相談すればいいか分からない」
「子どもが部屋から出てこず、家族だけで抱え込んでいる。札幌市内で、まず何をすればいいのだろうか」
北海道の中心都市である札幌市は、190万人以上が暮らす大都市です。その分、支援の選択肢も数多く存在します。しかし、情報が多岐にわたるため、「結局、自分(うちの子)はどこに相談するのが最適なのか」と迷い、最初の一歩を踏み出せずにいるご本人やご家族は少なくありません。
私自身、元当事者として、出口の見えない不安の中で「誰かに助けを求めたい」と思っても、その「誰か」がどこにいるか分からないことの辛さを理解しています。
この記事は、札幌市にお住まいのご本人とご家族が、孤立から抜け出し、安心して「次の一歩」を踏み出すための「支援マップ」です。札幌市は政令指定都市として独自の支援体制を持ちつつ、北海道(道)の専門機関とも密に連携しています。
どこに相談すべきか、どんな支援が受けられるのか、その全体像を徹底的に解説します。
札幌市のひきこもり支援:まず知るべき「市」と「道」の役割分担
札幌市で支援を探す際、まず理解しておきたいのが「札幌市(市)」の窓口と「北海道(道)」の窓口の役割の違いです。札幌市民は、この両方の支援を活用することができます。
1. 札幌市(各区役所)の窓口:「身近な相談」と「生活」の拠点
ご本人やご家族にとって、最も身近な第一の相談先が「札幌市」の窓口、すなわちお住まいの「区役所」です。
特徴:
・中央区、北区、東区、白石区、厚別区、豊平区、清田区、南区、西区、手稲区の全10区に設置されており、アクセスしやすい。
・ひきこもり問題だけでなく、「健康」「福祉」「経済的困窮」など、生活全体の困りごとを丸ごと受け止めてくれる「総合窓口」機能を持つ。
・「家族だけでも相談できる」ため、最初の一歩として最適。
2. 北海道(道)の窓口:「専門的」かつ「広域」な支援の拠点
北海道は、ひきこもり支援に関する「専門機関」を札幌市内に設置しています。これが、北海道における「ひきこもり地域支援センター」の本体機能となります。
特徴:
・ひきこもり支援に特化した専門家(精神保健福祉士など)が配置されている。
・市の窓口では対応が難しい専門的な相談や、継続的なカウンセリング、家族教室などを担う。
・札幌市を含む全道が対象だが、札幌市民ももちろん利用可能。
「まずは身近な区役所で話し、必要に応じて道やNPOの専門支援に繋いでもらう」というのが、札幌市における支援の基本的な流れになります。
【STEP1】札幌市民が「最初に相談すべき」公的な総合窓口
では、具体的に「どこ」のドアをノックすればよいのでしょうか。札幌市には、状況や年齢に応じて、複数の「入口」が用意されています。
最優先窓口:各区役所の「保健福祉(高齢・障害)課」
札幌市にお住まいの方が、年齢や状況に関わらず、ひきこもりや心の悩みについて「まず最初に」相談すべき場所が、お住まいの地域を管轄する「区役所の保健福祉課」です。(※部署名は区によって若干異なる場合がありますが、精神保健福祉の相談担当です)
・なぜここが最適か?
各区役所には、ひきこもりを含む「精神保健福祉(こころの健康)」に関する専門の相談員が配置されています。彼らは、札幌市における「ひきこもり地域支援センター」の“地域窓口”としての役割を担っており、ご本人やご家族からの最初の相談(インテーク)を受け止めるプロフェッショナルです。
・受けられる支援:
・専門相談員による電話・来所相談(無料・秘密厳守)。
・**「家族のみの相談」に最重要で対応**:「本人が動かない」という悩みに対し、家族としての対応方法をアドバイスしてくれます。
・ご本人が家から出られない場合の「訪問相談(アウトリーチ)」の調整・実施。
・必要に応じて、北海道の専門機関(後述)や、医療機関、市内のNPO、就労支援など、最適な場所へ「橋渡し」してくれます。
まずは、お住まいの区役所(中央区役所、北区役所など)に電話一本、「家族のひきこもりの件で、精神保健福祉の相談をしたい」と伝えることから始めてください。
北海道の専門窓口:「北海道ひきこもり成年相談センター」
区役所の窓口と並行して、あるいは、より専門的な相談をしたい場合に活用できるのが、「北海道ひきこもり成年相談センター」です。これは札幌市中央区(北海道立精神保健福祉センター内)に設置されている「北海道」の機関です。
・特徴:
当ブログの別記事(記事2)で解説した「ひきこもり地域支援センター」の、北海道における中核拠点です。おおむね18歳以上の方とそのご家族を対象としています。
・受けられる支援:
・専門相談員による継続的な相談(電話・来所)。
・**家族教室・家族相談会:**ひきこもりへの正しい理解と対応を学ぶための「家族教室」や、同じ悩みを持つ家族が集う「相談会(家族会)」を定期的に開催しています。家族が孤立しないために非常に重要な場です。
若者(~39歳目安)の場合:「札幌市若者支援総合センター(Youth+)」
もしご本人が10代~30代の場合、札幌市が運営する「札幌市若者支援総合センター(Youth+)」も非常に強力な窓口です。札幌市内(中央区、北区、白石区、豊平区)に複数の拠点を持ちます。
・特徴:
ひきこもり、不登校、ニート、発達障害の悩みなど、若者が抱えるあらゆる「生きづらさ」にワンストップで対応する、札幌市独自の専門機関です。
・受けられる支援:
・専門の相談員によるカウンセリング。
・**「フリースペース(居場所)」の提供:**これが最大の強みです。各センターに、同じ悩みを持つ仲間と交流したり、学習したり、ゲームをしたり、安心して過ごせる「居場所」が併設されています。「家以外の場所に行く練習」として最適です。
・「サポステ」機能:Youth+は、後述する「地域若者サポートステーション(サポステ)」の機能も併せ持っており、相談から居場所、就労準備までをシームレスに支援してくれます。
【STEP2】経済的な不安が重なる時の札幌市の窓口
ひきこもりが長期化すると、ご本人の将来への不安だけでなく、ご家族の「8050問題(80代の親が50代の子を支える)」に代表される「経済的困窮」が深刻な問題となります。
「親が倒れたら、この子の生活はどうなるのか」という切実な悩みには、専門の窓口があります。
各区役所の「保護(第一・第二)課」(くらしごと相談室)
ひきこもり状態であり、かつ経済的にも困窮している場合、【STEP1】の「保健福祉課」と並行して相談すべきなのが、同じ区役所内にある「保護課」です。
・特徴:
ここは、当ブログの別記事(補助金の記事)でも触れた「生活困窮者自立相談支援機関」の、札幌市における主要な窓口です。札幌市では「くらしごと相談室」という愛称で呼ばれることもあります。
・受けられる支援:
・専門の支援員が、世帯全体の家計の状況やひきこもりの状況を整理。
・生活保護に至る前の、様々な公的支援(住居確保給付金、貸付制度など)の案内。
・就労準備支援プログラムの紹介。
「心の相談(保健福祉課)」と「お金の相談(保護課)」は、区役所内で密に連携しています。どちらに相談しても、必要な情報には繋がっていきます。
【STEP3】札幌市で活動する「民間のNPO・居場所」という選択肢
公的機関(市・道)の支援は「信頼性」と「網羅性」が強みですが、一方で「公的機関はハードルが高い」「もっと柔軟な支援が欲しい」という場合、民間団体の支援が非常に有効です。
札幌市内には、公的機関と連携しながら活動する優良なNPO法人が数多く存在します。(※本記事は特定の団体を推奨するものではなく、あくまで支援の「種類」の例示です)
1. 支援の王道「居場所(フリースペース)」
最も多くのNPOが提供している支援が「居場所」です。「家以外の、安心して過ごせる第三の場所」を提供します。札幌市内には、それこそ無数の居場所が存在します。
公的機関の居場所(Youth+など)が比較的オープンで大規模なのに比べ、NPOの居場所は小規模でアットホームな雰囲気の場合も多く、「大人数が苦手」という方にも適しています。社会復帰への最初のリハビリ(=家以外の場所に行く練習)として最適です。
2. 家から出られない本人へ「訪問支援(アウトリーチ)」
ご本人が家から一歩も出られない場合、専門の支援員がご自宅を訪問するのが「訪問支援」です。公的機関(区役所や道センター)も行いますが、民間のNPOがより機動的・継続的に行っているケースも多いです。
当ブログの別記事(記事5「追い出し屋」)で解説したような強引な連れ出しとは全く異なり、本人の同意と信頼関係を第一に、時間をかけて社会との接点を作っていきます。
3. 家族が孤立しないための「家族会」
「北海道ひきこもり成年相談センター」が主催する公的な家族会のほか、「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」の北海道支部(さっぽろ「雪どけの会」など)や、各NPOが独自に運営する家族会が札幌市内には多数存在します。
家族が「悩んでいるのは自分だけではなかった」と知る(ピアサポート)だけでも、心は大きく救われます。
【重要】優良なNPOの探し方
こうした優良なNPOを自力でネット検索だけで探すのは困難であり、危険も伴います(悪質業者との見極めが難しいため)。
最も確実な方法は、【STEP1】で紹介した札幌市の「各区役所(保健福祉課)」や「北海道ひきこもり成年相談センター」に相談することです。相談員は、地域で信頼できるNPOのリストを把握しており、「あなたの状況なら、〇〇NPOの居場所が合っているかもしれません」と、適切に橋渡しをしてくれます。
【STEP4】「働きたい」が見えた時の札幌市の就労支援
ひきこもり状態から回復し、「少し働いてみたい」という意欲が出てきた時、その背中を押してくれる専門機関も札幌市には充実しています。
ハローワーク(札幌・札幌東・札幌北)
札幌市を管轄するハローワーク(札幌、札幌東、札幌北)は、求人紹介だけでなく、ひきこもり経験者のような「空白期間」が長い方への支援に力を入れています。
・活用ポイント:
・「わかものハローワーク札幌」:おおむね45歳未満の方を対象に、担当者制で手厚いキャリアカウンセリングが受けられます。
・職業訓練(ハロートレーニング):当ブログの別記事(記事6)で詳しく解説したように、無料でPCスキルやWebデザイン、介護などを学び、空白期間を「学習期間」として上書きできる制度です。
・求職者支援制度:職業訓練に通う間の生活費(月10万円など ※要審査)を支援する制度の相談もできます。
札幌市若者支援総合センター(Youth+) ※サポステ機能
【STEP1】で紹介した「Youth+」は、「地域若者サポートステーション(サポステ)」の機能も併せ持っています。ハローワークが「求職・就職」に強いのに対し、サポステは「就職前のリハビリ」に特化しています。「コミュニケーション講座」「ビジネスマナー」「職場体験」などを通じて、「働く自信」そのものを取り戻すための場所です。
就労移行支援事業所(札幌市内)
ひきこもりの背景に、発達障害や精神障害の「診断」がある(または診断見込みの)場合は、この選択肢が非常に有効です。「障害者総合支援法」に基づき、安価(多くは無料)で通所し、専門的な職業訓練が受けられます。
札幌市内にも多数の「就労移行支援事業所」が存在し、「障害者雇用枠」での就職を目指すため、あなたの特性(例:対人不安が強い)を企業側が理解・配慮してくれる形で、安定した就労を目指せます。
まとめ:札幌市の支援は「区役所(保健福祉課)」から始まる
この記事では、札幌市で利用できるひきこもり支援の全体像を4つのステップで解説しました。
・STEP1:公的な総合窓口(各区役所、道センター、Youth+)
・STEP2:経済的な窓口(区役所 保護課)
・STEP3:民間のNPO(居場所、訪問支援、家族会)
・STEP4:就労支援機関(ハローワーク、サポステ、移行支援)
これだけ多くの選択肢があると、やはり「どこから手をつければ…」と迷ってしまうかもしれません。
もし迷ったなら、答えはシンプルです。まず、お住まいの「区役所(保健福祉課)」に電話をしてください。(もし39歳以下なら「Youth+」も最適な入口です)
そこが、札幌市の支援ネットワークの「総合案内所」です。ご家族だけでも構いません。あなたの状況を丸ごと受け止め、この記事で紹介した全ての機関(道、NPO、ハローワーク)の中から、今あなたに最も必要な場所へと、確実に繋いでくれるはずです。