ひきこもりの寮(共同生活)支援|安全な施設の種類(公的福祉・NPO)と「追い出し屋」の寮との見極め方

「家ではどうしても生活リズムが作れない」
「親との関係が近すぎて、お互いに息苦しい。一度、物理的に距離を置いてみたい」
「自宅から通う『居場所』や『デイケア』も試したが、一歩進んで、自立した生活そのものを練習する環境に身を置きたい」

ひきこもり状態が長期化する中で、ご本人やご家族がこのように「環境そのものを変えたい」と考えるのは、自然な流れかもしれません。私自身、元当事者として、自宅という「安全すぎるが故に、抜け出しにくい空間」の強力さをよく理解しています。

その選択肢として存在するが、「自立訓練」や「社会復帰」を目的とした「共同生活(寮・施設)」です。

しかし、この「寮」という言葉には、非常に慎重になる必要があります。

当ブログの別記事(記事5「追い出し屋」)でも警鐘を鳴らしたように、本人の同意なく強引に連れ出し、高額な費用を請求し、外部と遮断された「寮」で人権を無視した“指導”を行う、極めて悪質な民間業者が存在するからです。

この記事で解説するのは、そうした危険な「追い出し屋」の施設とは**全く対極にある**、「ご本人の明確な意思(同意)」を大前提**とした、安全な「公的福祉サービス」または「信頼できるNPO」が提供する、**治療・訓練としての“安全な”共同生活です。

なぜ「寮」が必要なのか、その種類と、危険な業者との決定的な見極め方、そしてリアルな生活実態までを徹底的に解説します。

なぜ「通い(居場所)」ではなく「寮(共同生活)」なのか?

ひきこもり支援の基本は、「ひきこもり地域支援センター」やNPOが運営する「居場所」、あるいは病院の「デイケア」といった「通所(かよい)」です。では、あえて「入所(住み込み)」を選ぶメリットはどこにあるのでしょうか。

メリット1:生活リズムの根本的な立て直し

最大のメリットは「強制力」です。自宅では、昼夜逆転を治そうと思っても、深夜までネットをしてしまう誘惑に勝てません。しかし、共同生活の場では「起床時間」「食事の時間」「消灯時間」といった、生活の根幹となるルールが定められています。

その環境に身を置くことで、良くも悪くも「他者の目」があり、半ば強制的に、人間として基本的な生活リズムを取り戻すことができます。これは、自宅でのリハビリでは非常に困難な点です。

メリット2:親との「物理的な距離」の確保

ひきこもりの背景に、親との「過干渉」「共依存」といった、近すぎる家族関係が影響しているケースは少なくありません。ご本人は「親の期待から逃れたい」と感じ、親は「子どもの世話を焼く」ことで安心している。この膠着した関係を、自宅にいたまま変えるのは至難の業です。

一度、物理的に親元を離れること。それは、ご本人にとっては「自分のことは自分で決める」という自立の第一歩となり、ご家族にとっては「子どものいない生活」に慣れる“子離れ”のリハビリ期間となります。この「物理的距離」が、お互いを冷静にし、関係性を再構築するきっかけになるのです。

メリット3:24時間の「準・治療的」環境

「通い」の支援では、施設にいる間は安定していても、夕方自宅に帰ると一気に不安が襲ってくる、ということがあります。共同生活施設は、24時間体制で支援員(スタッフ)が常駐、またはオンコール(緊急時対応)体制を敷いています。

夜中に不安になった時に話せる相手がいる、という安心感。そして、同じ境遇の仲間(ピア)がすぐそばにいるという孤独感の解消。これは「住み込み」だからこそ得られる、強力なセーフティネットと言えます。

【種類別】ひきこもり支援の「寮・施設」3つのパターン

「寮」と一口に言っても、その法的根拠や目的によって、大きく3種類に分けられます。ご自身の状況(特に“診断”の有無)によって、選ぶべき道が異なります。

パターン1:【診断あり】障害者総合支援法に基づく「グループホーム(共同生活援助)」

ひきこもりの背景に、うつ病、統合失調症、発達障害などの「精神障害」の診断があり、医師から「精神障害者保健福祉手帳」の取得を勧められている(または取得済み)の方が対象です。

目的:「訓練」よりも「地域での安定した“生活”」に重点が置かれます。支援員(世話人)が、食事の提供、服薬の管理、金銭管理の相談、通院の同行など、日常生活全般をサポートします。
特徴:あくまで「生活の場」なので、入居期間に定めはありません(数年単位が一般的)。日中は、ここから「就労移行支援事業所」や「デイケア」に通ったり、アルバイトに行ったりします。
費用:公的福祉サービスのため、費用負担は非常に安価です。国の定めるサービス利用料(原則1割負担、多くは所得に応じ無料)+家賃(自治体から補助が出る場合が多い)+光熱費・食費の実費、となります。
探し方:お住まいの市区町村の「障害福祉課」や、担当の「相談支援専門員」、または通院先の病院のPSW(精神保健福祉士)に相談します。

パターン2:【診断あり】障害者総合支援法に基づく「自立訓練(生活訓練)」※宿泊型

これもパターン1と同様に「障害」の診断がある方が対象ですが、目的が異なります。

目的:「生活」よりも「“訓練”」に重点が置かれます。「2年間」といった期限を定め、その間に料理、洗濯、掃除、金銭管理、対人スキルといった、自立生活に必要な能力を集中的に学ぶ「学校の寮」のようなイメージです。
特徴:日中も施設内でプログラム(SST、料理教室、体力づくりなど)が組まれていることが多いです。2年間の訓練終了後は、アパートでの一人暮らしやグループホームへの移行を目指します。
費用:これも公的福祉サービスのため、安価です。サービス利用料+家賃・食費等の実費となります。
探し方:「障害福祉課」や「相談支援専門員」に相談します。

パターン3:【診断なし・グレーゾーン】NPO法人などが運営する「自立支援寮・シェアハウス」

「病院には行っていない」「診断は受けていないが生きづらい」という、公的福祉の枠(パターン1, 2)に乗れない方が主な対象です。

目的:NPO法人の理念に基づき様々です。「若者の自立支援」「ひきこもりからの社会復帰」「就労準備」など、団体によって特色があります。
特徴:公的サービスではないため、ルールの自由度が高い反面、支援の質も団体によって千差万別です。優良なNPOは、公的機関(ひきこもり地域支援センターやサポステ)と密に連携しています。
費用:公的補助がないため、全額自己負担となります。家賃、運営費、食費などで、月額8万~15万円程度かかる場合が多く、パターン1, 2に比べて高額になる傾向があります。
探し方:自力で探すのは危険です(悪質業者との見極めが難しいため)。必ず、お住まいの「ひきこもり地域支援センター」や「保健所」に相談し、「診断はないが、共同生活できる場所を探している」と伝え、信頼できるNPOを「紹介」してもらうのが鉄則です。

最重要:「安全な寮」と「危険な追い出し屋の寮」を見極めるチェックリスト

ご家族が最も恐れるべきは、藁にもすがる思いで相談した先が、高額な費用を請求する悪質な「追い出し屋」の寮(施設)であることです。当ブログ(記事5)でも警鐘を鳴らしましたが、ここで改めて「安全な寮」との見極め方を解説します。

チェック1:本人の「同意」と「意思」を最優先しているか

危険な業者:「ご本人が嫌がっていても大丈夫です」「親御さんの“決断”さえあれば、私たちが説得(=強引な連れ出し)します」と、本人不在のまま契約を迫ります。
安全な施設:「必ず、ご本人様との面談が必要です」「まずは体験入所(ショートステイ)をして、ご本人が“ここがいい”と納得してから決めてください」と、本人の意思決定プロセスを最重要視します。

チェック2:費用の「契約形態」と「透明性」

危険な業者:「支援費」「着手金」などの名目で、入所時に数百万円単位の「前払い・一括払い」を要求します。契約書の内容が曖昧で、中途解約しても返金されないケースが多いです。
安全な施設:「家賃」「食費」「サービス利用料(公的福祉の場合)」など、内訳が明瞭な「月額払い(月謝制)」が基本です。賃貸契約や利用契約を正式に結びます。

チェック3:「外部との連携」と「開放性」

危険な業者:「行政(公的支援)は生ぬるい」「我々の“独自メソッド”で解決する」と、外部機関との連携を嫌います。入所と同時にスマホやPCを取り上げ、家族との連絡や面会を厳しく制限し、施設内に「隔離」します。
安全な施設:お住まいの自治体(市区町村の障害福祉課)や、「ひきこもり地域支援センター」と密に連携していることを公表しています。家族との連絡や面会、本人の外出(許可制の場合はある)は基本的に自由であり、社会から「開放」されています。

チェック4:支援者の「専門資格」

危険な業者:スタッフの経歴が不明瞭で、「元ヤンキー」「熱血指導」といった精神論・根性論を売りにしている場合があります。
安全な施設:「精神保健福祉士(PSW)」「社会福祉士」「公認心理師」「看護師」といった、医療・福祉の国家資格を持つ専門家が在籍し、科学的根拠に基づいた支援(SST、認知行動療法など)が行われています。

この4点で、一つでも「危険」な兆候が見られた場合、その業者との契約は絶対に見送るべきです。

共同生活のリアル:覚悟すべき「デメリット」と「対人ストレス」

「寮」は万能薬ではありません。安全な施設を選んだとしても、そこには「自宅」にはなかった、新たなストレスが存在します。

・デメリット1:プライバシーの制限
個室が確保されていても、食事や入浴の時間は決められ、リビングなどの共有スペースでは他者と顔を合わせる必要があります。「完全に一人きり」になれる時間は、自宅に比べて圧倒的に減ります。

・デメリット2:対人関係のストレス
これが最大の壁かもしれません。支援スタッフはプロですが、他の入居者も、あなたと同じように何らかの生きづらさや特性を抱えた人たちです。生活音、価値観の違い、ささいな言動で、必ず「対人ストレス」は発生します。しかし、見方を変えれば、そのストレスを支援員に相談し、乗り越えるプロセスこそが、社会復帰のための最高の実践訓練(リハビリ)とも言えます。

・デメリット3:依存先の移行リスク
「親」から「施設」に依存先が変わっただけで、ご本人の「自分で決める力」が育たないまま、施設に長期滞在してしまうリスクもあります。あくまで「通過点」であるという意識が重要です。

まとめ:入所の前に、必ず「公的機関」と「診断」を経由すること

「環境を変えたい」という思いは、回復への大きなエネルギーです。しかし、そのエネルギーを悪質な業者に搾取されては元も子もありません。

安全な「寮・共同生活」にたどり着くための正しいステップは、以下の通りです。

STEP1:公的機関への相談
まずは「ひきこもり地域支援センター」や「保健所(精神保健福祉担当)」、あるいは市区町村の「障害福祉課」に相談します。

STEP2:医療機関(ひきこもり外来など)の受診
公的機関と相談し、「医療(診断)が必要か」を判断します。もし診断(精神障害、発達障害など)がつけば、利用できる福祉サービス(パターン1, 2)が格段に広がり、費用負担も激減します。

STEP3:公的機関からの「紹介」
診断があってもなくても、自力で寮を探すのではなく、必ずSTEP1で相談した公的機関に「信頼できる共同生活の場所(グループホーム、自立訓練、NPOの寮)を紹介してほしい」と依頼します。

STEP4:体験入所と本人の意思確認
紹介された施設を必ず見学・体験入所し、ご本人が「ここでなら頑張れそうだ」と心から納得した場合にのみ、契約を進めます。

「親元を離れる」という決断は、ご本人とご家族の双方にとって非常に勇気がいる「次の一歩」です。その一歩が“修復不可能な失敗”にならないよう、焦らず、必ず「公的機関」という安全な橋を渡って進んでください。

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