ひきこもり「追い出し屋」の危険な実態|高額な費用と失敗の末路、公的支援(訪問支援)との違いを徹底解説

「子どもが何年も部屋から出てこない」「公的な相談窓A口(ひきこもり地域支援センターなど)に相談したが、本人が動かないので進展しない」「私たち親も高齢になり、体力も気力も限界だ。お金を払ってでも、誰かに強引に連れ出してほしい」…。

当ブログ運営者の私も、かつて将来への不安で身動きが取れなかった時期があり、ご本人が抱える苦しさ、そして、それを見守るしかないご家族の焦りや絶望感は、察するに余りあります。

公的な支援が「本人の意思」を尊重するため、どうしても時間がかかるのに対し、インターネット上には「最短即日対応」「必ず連れ出します」と謳う、民間の支援業者が存在します。

これらの一部は、メディアなどで「追い出し屋」や「引き出し屋」と呼ばれることがあります。藁にもすがる思いのご家族にとって、それは「最後の希望」のように映るかもしれません。

しかし、その選択には、ご本人の人生と家族の関係性を、修復不可能なレベルで破壊してしまう深刻なリスクが潜んでいます。この記事では、なぜ多くの専門家や公的機関がこれらの強引な手法に警鐘を鳴らすのか、その「サービス実態」と「問題点」を、元当事者の視点も交えながら冷静に徹底解説します。

「追い出し屋(引き出し屋)」とは何か?

まず、「追い出し屋」や「引き出し屋」と呼ばれる民間のひきこもり支援サービスが、公的支援(ひきこもり地域支援センターなど)と根本的に何が違うのかを理解する必要があります。

※注:「追い出し屋」は元々、家賃滞納者などを強制退去させる業者を指す言葉ですが、ひきこもり支援の文脈では「引き出し屋」とほぼ同義の、「強引な連れ出し」を行う業者を指す俗称として使われることがあります。

公的支援との決定的な違い

当ブログの別記事でも解説している「ひきこもり地域支援センター」や、自治体と連携するNPO法人が行う支援(訪問支援など)は、以下の大原則に基づいています。

* **本人の意思の尊重(Voluntary):**本人が望まない支援は行わない。
* **関係性の構築(Relationship):**支援者と本人が時間をかけて信頼関係を築くことを最優先する。
* **プロセス重視(Process):**「働かせる」という結果(ゴール)ではなく、本人の心が回復する過程(プロセス)を重視する。

これに対し、一部の「追い出し屋」的とされる業者は、全く逆のアプローチを採ります。

* **本人の意思の軽視(Coercive):**本人が拒否しても、家族(親)の依頼と同意があれば介入する。
* **強制的な介入(Intervention):**事前の告知なく、あるいは本人の抵抗に関わらず、複数のスタッフが自宅を訪問し、部屋から連れ出す。
* **結果重視(Goal-oriented):**「家から連れ出す」という結果を最優先する。

具体的なサービス実態の流れ(とされるもの)

全ての業者が同じ手法を採るわけではありませんが、問題視されるケースでは、以下のような流れが報告されています。

1. 家族(親)からの切迫した相談
親が業者に「もう限界だ」と相談。業者は「このままでは手遅れになる」「私たち専門家なら解決できる」と、親の不安を煽りつつ、即時の介入を勧める。

2. 高額な契約の締結
「着手金」「支援費」「寮費」など、さまざまな名目で数百万円から、時には1千万円を超える高額な契約を結ぶケースがあります。「この金額で子どもの将来が買えるなら」と、親は退職金や貯蓄を切り崩して支払いに応じてしまいます。

3. 介入(連れ出し)の実行
ある日突然、本人の同意なく、複数の屈強なスタッフが部屋を訪れます。多くの場合、本人は寝ている早朝などを狙うと言われます。パニックになり抵抗する本人に対し、「説得」という名目で、時には半ば物理的な力(拘束など)を用いて部屋から連れ出します。

4. 隔離(寮・施設への入所)
連れ出された本人は、その足で車に乗せられ、家族と遠く離れた場所にある業者の「寮」「研修所」といった施設に連れて行かれます。多くの場合、外部との連絡(スマホ、手紙など)は厳しく制限されます。

5. 施設での「研修」
施設では、共同生活や農作業、あるいは精神論的な研修(「甘えを捨てる」など)が課されます。支援内容は業者の独自のものであり、公的な資格(医療や福祉)に基づかないものが多く含まれます。

なぜ「追い出し屋」は深刻な問題なのか?

この「連れ出して、隔離する」という一連の流れは、ご本人とご家族の双方にとって、取り返しのつかない深刻な問題を引き起こす可能性を内包しています。

問題点1:人権侵害・違法性の高いグレーゾーン

家族(親)が依頼したとしても、成人した(あるいは未成年でも)本人の意思に反して部屋に踏み込み、無理やり連れ出す行為は、法的に極めて危険な領域にあります。

本人の抵抗の仕方や、連れ出す側の対応によっては、「住居侵入罪」「監禁罪」「暴行罪」「傷害罪」といった刑法に抵触する可能性が常にあります。

「親の許可があるから合法だ」と業者は説明するかもしれませんが、本人の「自由である権利」は親であっても侵害できません。実際に、こうした連れ出しの過程で本人が怪我をしたり、最悪の場合、亡くなってしまったりする痛ましい事件が過去に何度も報道されています。

問題点2:新たな「心的外傷(トラウマ)」の上塗り

ひきこもり状態にある人の多くは、元々、学校でのいじめ、職場でのハラスメント、人間関係の失敗といった「社会的なトラウマ」によって傷つき、安全な場所(自室)に避難している状態です。

その唯一の安全な場所である自室に、ある日突然、見知らぬ屈強な他人が踏み込んできて、自分の尊厳を否定され、力ずくで連れ去られる…。この経験は、ご本人の視点から見れば**「誘拐」「拉致」**以外の何物でもありません。

元のトラウマが癒えるどころか、「家(自室)すら安全ではなかった」「親に裏切られた」という、さらに深刻で根深い「新たなトラウマ」を上塗りすることになります。仮にその業者から解放されたとしても、このトラウマが原因で、より一層強固に人間不信になり、社会復帰が絶望的に困難になるケースがあります。

問題点3:家族関係の“完全な”破壊

これが、ご家族にとって最も重い代償かもしれません。

ご家族は「子どものためを思って」決断したことでしょう。しかし、実行された本人にとっては、「自分を力ずくで排除するために、親が他人(業者)を雇った」という事実に他なりません。

これまで辛うじて保たれていた家族間の信頼関係は、この日を境に完全に、そしておそらく永久に破壊されます。たとえ本人が施設から出てきたとしても、「自分を拉致した親」を許すことは極めて困難です。

ひきこもり支援の最終的なゴールの一つが「家族関係の再構築」であるとすれば、この手法はゴールとは真逆の、修復不可能な断絶を生み出す最悪の選択となり得ます。

問題点4:高額な経済的搾取と、支援の“非”専門性

ひきこもり支援には、医療(精神医学)、福祉(ソーシャルワーク)、心理(カウンセリング)といった高度な専門知識が必要です。

しかし、こうした「追い出し屋」的サービスは、国の許認可や公的な資格(医師、精神保健福祉士など)を必要としない「自称・支援業」として行われているケースが散見されます。中には、ひきこもり支援とは全く関係のない業界から参入した業者もいると言われています。

専門性に基づかない独自の理論(「甘えの構造を叩き直す」など)で運営される施設に、家族は高額な費用(数百万円)を支払い続けることになります。これは「支援」という名の、切迫した家族の心理につけ込んだ「経済的搾取」の構造をはらんでいると、多くの専門家や弁護士が指摘しています。

なぜ家族は「追い出し屋」に頼ってしまうのか

これほどのリスクがありながら、なぜ高額な契約を結んでしまうご家族が後を絶たないのでしょうか。それは、ご家族が置かれた「孤立」と「絶望」に原因があります。

1. 公的支援の「遅さ」への絶望
「ひきこもり地域支援センター」などに相談したものの、「本人の意思がなければ何もできない」「まずは家族教室から参加してください」と言われ、具体的な進展が見えない。「8050問題」を目前にし、「そんな悠長なことを言っている間に、私たちが死んでしまう」という焦りが、即時介入を謳う業者に魅力を感じさせてしまいます。

2. 社会的な孤立と羞恥心
「子どものひきこもりを、近所や親戚に知られたくない」という思いから、公的な窓口(役所など)を避けてしまう。その結果、誰にも相談できずに孤立し、「内密に」「高額で」解決してくれるという民間の業者に頼らざるを得ない、と思い込んでしまいます。

3. 「甘え」であるという誤解
「うちの子は、ただ甘えているだけだ。一度、厳しい環境に放り込めば目が覚めるはずだ」という、ひきこもりに対する根本的な誤解(ひきこもりは“状態”であり、“怠け”ではない)が、強引な介入を正当化する理由になってしまいます。

強引な連れ出しの「代替案」:安全で公的な支援とは

では、「追い出し屋」に頼らず、状況を動かすための安全な方法はないのでしょうか。もちろん、あります。それは「強引」ではなく「丁寧」なアプローチであり、当ブログが推奨する公的支援の根幹です。

代替案1:公的な「訪問支援(アウトリーチ)」

これが「追い出し屋」の、最も安全で、最も正当なカウンターパート(対になる支援)です。

「ひきこもり地域支援センター」や、そこから委託を受けたNPOの支援員(精神保健福祉士など)が、自宅を訪問する支援です。しかし、その目的は「連れ出すこと」ではありません。

その目的は**「信頼関係を築くこと」**です。最初はドア越しに声をかけるだけ、次は手紙をポストに入れるだけ。それを数ヶ月続けます。やがて本人がドアを開け、玄関先で5分だけ話す。それをまた数ヶ月…。

「この人は自分を無理やり連れ出したり、否定したりしない、安全な人だ」とご本人が認識するまで、支援員は忍耐強く待ち続けます。この「待つ」支援こそが、トラウマを抱えたご本人の心を動かす唯一の方法です。時間はかかりますが、これは「回復」であり、「破壊」ではありません。

代替案2:家族が支援機関と「だけ」繋がる

「追い出し屋」に頼るご家族の多くは、ご本人が動かないことに焦っています。しかし、ひきこもり支援の鉄則は**「まず、家族が支援と繋がる」**ことです。

ご本人が動かないなら、まずはご家族(親御さん)だけが「ひきこもり地域支援センター」や「家族会」に定期的に通ってください。そこで、ひきこもりに対する正しい知識(“怠け”ではないこと)や、ご本人への適切な接し方(過干渉や叱責をやめること)を学びます。

家族の対応が変わると、家庭内の緊張が緩和され、ご本人が「安心して」外に出る気力を取り戻すケースは非常に多いのです。状況を動かす鍵は、業者ではなく、ご家族が握っています。

まとめ:焦りが生む「最悪の選択」を避けるために

「今すぐ何とかしたい」というご家族の切迫したお気持ちは、痛いほど理解できます。しかし、その焦りにつけ込み、高額な費用で「解決」を謳う業者の手は、多くの場合、真の解決には繋がりません。

強引な連れ出しは、ご本人の心と尊厳を破壊し、家族の関係性に修復不可能な亀裂を入れ、法的なリスクさえ伴う「劇薬」であり、決して「支援」とは呼べません。

時間はかかります。忍耐も必要です。しかし、ご本人の回復への道は「信頼関係の再構築」以外にあり得ません。その第一歩は、ご家族が「追い出し屋」のような危険な選択肢に頼るのではなく、お住まいの地域の「ひきこもり地域支援センター」という公的なパートナーと繋がり、安全な支援の輪の中に入ることです。

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