【ひきこもり支援】補助金・助成金の仕組み|家族が直接もらえる?NPOの財源は?公的支援の“お金”を徹底解説

「ひきこもりが長期化し、子どもの将来も、家計も不安だ」「家族として何かできることはないか、支援を受けるのにお金がかかるなら、公的な補助金のようなものはないだろうか」

ご本人の将来への不安と同時に、ひきこもりが長期化するにつれて重くのしかかるのが「経済的な負担」です。私自身、将来への不安を抱えていた時期、親に金銭的な心配をかけていること自体が、さらなる自己嫌悪と焦りを生む悪循環の一因になっていたことを覚えています。

そうした状況で、ご家族が「補助金」「助成金」といったキーワードに関心を持つのは当然のことです。

しかし、ここで非常に重要な前提知識があります。日本のひきこもり支援において、「ひきこもりの子を持つ家族が、その支援のために直接受け取れる現金給付(補助金)」というものは、残念ながらほぼ存在しません。

では、支援策は存在しないのか?というと、そうではありません。国や自治体の支援は、「家族へのお金の給付」ではなく、「家族が無料で、あるいは安価で利用できる支援サービス(相談窓口、居場所、訪問支援など)を提供する団体(NPOや社会福祉法人)へお金を助成する」という形で、間接的に行われています。

この記事では、その複雑な「ひきこもり支援のお金の仕組み」を解き明かし、支援団体や家族が「本当に活用できる制度」は何かを徹底的に解説します。

大前提:なぜ家族への「直接的な補助金」は無いのか

多くの方が疑問に思うのが、「なぜ直接助けてくれないのか」という点でしょう。これには、ひきこもり問題特有の難しさが関係しています。

1. 「ひきこもり」が“状態”であり、特定の“傷病”ではないこと
公的な補助金や助成金は、多くの場合「病気」「障害」「特定の経済的困窮状態」といった明確な定義・診断に基づいて支給されます。しかし「ひきこもり」は、それ自体が病名ではなく、様々な要因が絡み合った「状態」を指す言葉です。そのため、「ひきこもり状態だから〇〇円支給」という制度設計が非常に困難なのです。(※背景に精神疾患などがある場合の制度は後述します)

2. 支援の形が画一的ではないこと
ひきこもりに至った背景や本人の状況は、文字通り千差万別です。Aさんには「就労支援」が必要でも、Bさんには「医療」が、Cさんには「安心できる居場所」がまず必要かもしれません。お金を直接給付するだけでは、この多様なニーズに対応した専門的支援に結びつかない可能性が高いのです。

こうした理由から、国や自治体は「お金を直接渡す」よりも、多様な支援を行う「専門機関(団体)を金銭的にサポート」し、国民(家族)がそれらの専門サービスを安価に利用できるようにする、という「間接支援」の形を採っているのです。

【支援団体向け】ひきこもり支援を支える主な助成事業

ここからは、私たちが利用する「無料相談」や「安価な居場所」が、どのような財源で運営されているのか、その裏側を見ていきます。これは、支援団体(NPOなど)が活動資金を得るために活用する制度です。

国の根幹事業「ひきこもり支援推進事業」

日本のひきこもり支援の根幹となっているのが、厚生労働省による「ひきこもり支援推進事業」です。

これは、国が都道府県や政令指定都市に対して「ひきこもり支援をしっかり行うように」と予算(補助金)を交付するものです。この予算を使って、各自治体は以下のような支援体制を整備します。

* ひきこもり地域支援センターの設置・運営
当ブログの別記事でも詳しく解説した「ひきこもり地域支援センター」。この公的な専門機関の運営費(人件費、家賃、相談事業費など)は、この補助金によって賄われています。
* 支援人材の養成
ひきこもり支援には「アウトリーチ(訪問支援)」や「ピアサポート(当事者同士の支援)」といった専門スキルが必要です。こうした支援者を育成するための研修費用にも、この補助金が使われます。
* 居場所(フリースペース)運営団体への委託
自治体が直接運営するだけでなく、地域のNPO法人などに「居場所の運営」を委託する際の費用としても活用されます。

つまり、ご家族が「ひきこもり地域支援センター」に無料で相談できたり、ご本人が安価(または無料)で「居場所」を利用できたりするのは、この国の補助金が支援団体の運営を支えているからにほかなりません。

民間の財団・募金による助成金

国の事業とは別に、民間の財団や募金団体も、ひきこもり支援を含む「社会貢献活動」を行うNPOに対して助成金を出しています。

・赤い羽根共同募金(社会福祉法人 中央共同募金会)
年末の募金活動で知られる「赤い羽根」も、その使途の一つとして、ひきこもり当事者や家族の「居場所づくり」、孤立を防ぐための「サロン活動」、支援者の「養成研修」などを行うNPOに対し、活動資金を助成しています。「自分たちの地域の居場所」が、こうした民間の助成金で支えられているケースも多くあります。

・その他の民間財団(例:トヨタ財団、キリン福祉財団など)
企業の社会的責任(CSR)の一環として設立された多くの民間財団も、「地域共生」「孤立防止」といったテーマで、ひきこもり支援に類する活動を行う団体に助成金を提供しています。

支援団体(NPO)は、こうした国の補助金や民間の助成金を組み合わせて財源を確保し、相談者(家族)から高額な利用料を徴収しなくても済むように活動を維持しているのです。

【家族・本人向け】直接利用できる公的な経済支援制度

さて、ここからは視点を変えて、「ひきこもり補助金」という名前ではないものの、結果としてひきこもり状態のご本人やご家族が“直接的に”利用できる可能性がある、公的な経済支援制度を解説します。

これらは「ひきこもりだから」ではなく、あくまで「(背景にある)傷病」や「世帯全体の経済的困窮」に着目した制度です。利用には非常に厳格な条件・審査があります。

1. 障害年金

ひきこもり状態の背景に、精神疾患(統合失調症、うつ病、双極性障害など)や発達障害が隠れているケースは少なくありません。

これらの傷病が原因で、日常生活や就労に著しい制限があると医師によって診断され、かつ年金の納付要件(初診日までに一定期間、国民年金や厚生年金を納めていること。または20歳未満で発症)を満たしている場合、「障害年金」の受給対象となる可能性があります。

これは「ひきこもり補助金」ではなく、病気や障害によって生活や仕事が制限される方へ支給される、れっきとした公的年金(保険)です。ひきこもり状態が長く、その背景に医師の診断がある場合は、一度「ひきこもり地域支援センター」や、年金の専門家である「社会保険労務士」に相談してみる価値はあります。

2. 生活保護(公的扶助)

これは、いわゆる「最後のセーフティネット」です。ひきこもり状態が長期化し、親が年金暮らしになるなどで世帯全体の収入が途絶え、預貯金も底をつき、他に頼れる親族もいない…という場合、憲法で保障された「健康で文化的な最低限度の生活」を送るために「生活保護」を受給できる可能性があります。

ただし、ご本人がひきこもり状態であっても、親世帯に十分な収入や資産(持ち家は状況によります)がある場合は、世帯全体として「生活困窮」とはみなされず、対象外となります。

また、ひきこもり問題でしばしば壁となるのが「親族の扶養義務」です。法律上、親や兄弟姉妹は互いに助け合う義務(扶養義務)があり、行政から親族に対して「支援できませんか?」という照会(扶養照会)が行われることがあります。これが心理的なハードルとなり、本人が申請をためらうケースもあります(※近年は運用が柔軟化されています)。

8050問題(80代の親が50代のひきこもりの子を支える)が深刻化する中、親が亡くなった後に、ひきこもりだった子が生活保護を申請するケースは増えており、重要な社会制度の一つとなっています。

3. 生活福祉資金貸付制度(社会福祉協議会)

これは「補助金(もらう)」ではなく、「貸付(借りる)」制度です。各市区町村にある「社会福祉協議会」が窓口となり、低所得世帯や障害者世帯などに対し、無利子または低利子で生活資金や福祉資金を貸し付ける制度です。

例えば、ひきこもり状態から抜け出し、就労移行支援事業所(後述)に通うための費用や、社会復帰のためのスキルを学ぶ(例:プログラミングスクールなど)費用を「教育支援資金」として借りられる可能性があります。

あくまで「貸付」であり、将来的に返済する必要がありますが、一時的にまとまったお金が必要になった場合に、消費者金融などに頼る前にまず相談すべき公的な窓口です。

4. 障害者総合支援法に基づく福祉サービス

これは「お金がもらえる」制度ではありませんが、「サービス(支援)を原則1割負担(または無料)で受けられる」という、非常に強力な金銭的支援の一つです。

もし、ひきこもりの背景に発達障害や精神障害の診断がある場合、「障害福祉サービス受給者証」を取得できる可能性があります。これがあると、例えば以下のような専門的な支援機関を安価に利用できます。

* 就労移行支援事業所
一般企業への就職を目指す障害のある方が、ビジネスマナーやPCスキル、コミュニケーションなどを学ぶための「リハビリ学校」のような場所です。原則2年間、通所しながら訓練を受けられます。
* 自立訓練(生活訓練)
昼夜逆転の改善、体力づくり、金銭管理、対人関係の練習など、社会生活を送る上での基本的なスキルを学ぶ場所です。

これらの事業所は、利用者が支払う(最大)1割の負担を除き、残りの9割は国と自治体の「補助金(自立支援給付)」で運営されています。これもまた、支援制度が「間接的」に利用者を支えている典型的な例です。

まとめ:まずは「支援の仕組み」を理解し、総合窓口へ

ひきこもりに関する「補助金・助成金」について解説してきましたが、ご理解いただきたい最も重要なポイントは以下の2点です。

1. 家族が直接もらえる「ひきこもり補助金」は無く、支援はNPOなどへの助成(=サービスが安価に使える)という形で**間接的**に行われている。

2. 家族や本人が直接利用できる経済制度は「障害年金」や「生活保護」などがあるが、それは「ひきこもり」理由ではなく、あくまで「傷病」や「経済的困窮」が対象である。

これらの制度は非常に複雑で、ご家族やご本人が「うちはどれが使えるのか?」を自力で判断するのは不可能です。

だからこそ、当ブログで繰り返しお伝えしている公的な専門機関**「ひきこもり地域支援センター」**の存在が重要になります。彼らは、こうした複雑な制度全体を把握した上で、「あなたのご家庭の場合は、まずNPOの居場所(助成金で運営)と繋がってみましょう」「背景にある疾患が重そうなので、障害年金の専門家を紹介します」「経済的に困窮しているので、生活福祉資金の窓口に繋ぎます」といった仕分けと橋渡しをしてくれる、公的な「総合案内窓口」なのです。

「お金が欲しい」と直接的な解決を求める前に、まずはこの「総合案内窓口」で、ご自身の状況を整理することから始めてみてください。

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